例会案内/例会感想

河南支部 2024年3月例会

2024/03/26

感想文:カワモト・マニュファクチュアリング(株)中野 幹生 氏

報告者は阪和化工機の町井社長。国内シェアトップを競う撹拌機の優良メーカーのトップである。

いきおい熱気に満ちた例会となった。

最近の経営者は、カタカナ用語や流行りのフレーズが散りばめられた素敵な話を、滔々と語ることが多い。

しかし、ホンモノの経営者の言葉は異次元である。

町井社長の報告は、すべて実体験の裏付けがある。生きた言葉のシャワーである。耳から入った音が、熱い塊となって脳内を駆け巡り、過去の記憶、実体験をまさぐるように走り回る。

体験があれば共鳴し、なければ空ドラムを叩くように暴れまわる。いずれにせよ、無事では済まない。

そんな「出会い」があるのが、ホンモノの経営者の報告の怖ろしいところである。

町井社長は「現役の経営者」である。

だから「師匠」などと呼ばれることを潔しとしないし、そう呼んで近く軽薄な者を拒否する険しさを感じさせる。

ゆえに、いつも僕たちのライバルなのだ。

いわば、親方ではなく、横綱である。

なんとか胸を借りようと意気込んで土俵に上がると、大横綱の存在に圧倒され、意識は朦朧としてくる。そもそも自分は何者で、何をするために土俵に立ったのかすら、忘れ去ってしまう。

気がついたら土俵の下に転落している。

ボウズに泣いた串本のかせ釣り。

豪雨に見舞われた上海の皆既日食。

ほかにも不幸があったような。

なぜか町井社長といると満身創痍になるのは、どうしたことだろう?

町井社長は、豪放磊落に見えて誰よりも繊細で感受性が鋭い。

派手で尊大に振る舞う代わりに周囲への気配りと接遇の段取りも常軌を逸している。

僕らはそれに何度も助けられ勇気づけられた。

中小企業が日本の企業に占める割合は99.7パーセント。勤労者の7割がそこで働いている。

そのひとつひとつの会社がよくなれば、世の中はきっとよくなるはずだ。

僕たちは、そんな思いで集まっている報告は、大幅に時間超過した。

小さな会場であったが、いまこの瞬間に、目の前にいる人たちに、自分の体験を、何としても共有したい。自分の思いを必ず伝えたい。強い思いと心遣いゆえである。

時間や数字にルーズな人ではない。

町井社長はいつも持ち歩くポーチには経営計画書を忍ばせておられるらしい。

人一倍数字には厳しいはずである。

しかし、タイムテーブルなど、実体験の前には何の価値もない。それは合理的な判断である。

報告のなかで、町井社長は「社員さんの"夢"」という言葉を何度も何度も口にされた。

「スキルアップ」や「社員の成長」、「適切な評価基準」「ひとりあたり粗利益」などという、よくある話は語られない。

「社員さんの"夢"」なのだ。

社員たちの夢を実現すること。経営者にとってこれほど過酷な試練はない。

誰もが勝手な夢を思い描くはずである。仕事とは関係のない夢や、会社を辞めて毎日遊び暮らしたいという夢もあるだろう。過去のトラウマを抱え、明るい未来を思い描くのが困難な者もいる。

そうしたひとつひとつの事情の奥底に、小さな小さな夢のかけらが存在する。

そんな社員さんたちが、大きな夢、正しい夢を、自ら思い描けるよう支え続けなければならないのだ。

町井社長は、父親の会社に入社後、わずか2年で自社の倒産に見舞われた。

事業の立て直しのため、設計・製造・営業・経理と、ありとあらゆる業務をこなしながら、自社を業界ナンバーツーに導いてきた。

倒産直後には、営業に回っても殆どの得意先から締め出されたという。そんな中でも一人の担当者、一つの企業と繋がりが芽生え、やがてそれは大きな輪になっていく。

「3年も5年も経ったら、誰も倒産企業だったことは、きれいさっぱり忘れていました」

そうおっしゃったが、その背景には、過去の否定的な側面を一掃するほどの努力があったことは想像に難くない。

35年に及ぶ経営者人生の、一日一日の偽りなき蓄積が、僕たちの眼の前で語られている。同じ目線で語られている。

これぞ同友会の例会である。

町井社長は、例会に来るといつも緻密なメモを取っておられる。その姿勢ははどんな報告者でも変わらない。

万事に用意周到な町井社長は、自社の社員さんたちに「"夢"とはどんなものか」を知らしめるために、社員旅行では海外に行き、そのエリアの最高級ホテルに宿泊する。そして途上国のスラム街を一緒に巡るのだ。

現実と非現実が急速に入れ替わる体験に、彼ら彼女たちは、いったい何を思うだろう?

混乱が静まり、脳内の震盪が収まる頃、心の上澄みの表面に、ポッカリと"夢"が浮かびあがる、

そんな体験をみんなで共有し続けておられるのだろう。

債権者に攻め続けられる父親の姿を傍で見ながら、倒産直後の絶望のなか、町井社長は"夢"など描けるはずはなかった。

しかし、いまは社員たちと一緒に、大きな"夢"を描き続けておられる。

同社は来年4月に新しい社屋を竣工する。

「中野さん、新社屋は7階建てのビルになります!」面と向かって、そう告げられたのだ。

これはもう、《お前は20階建てのビルでも建てるのか?》と問われたに等しいではないか!

さらにダメ押しがある。

懇親会の帰り道、町井社長のポルシェが僕の横を颯爽と追い越していく。赤いテールランプを見送りながら、頭の中に言葉が響く。

《お前はマクラーレンにでも乗るのか?》

久しぶりに例会の晩の寝付きが悪かった。しかし、お陰で20階建てのビルとマクラーレンを夢見ることができた。

よい例会だった。

投稿者名